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大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)23号 判決

原告(選定当事者) 清水一

被告 東大阪市教育委員会

主文

一  本件訴えのうち、被告が昭和六一年二月二五日付けで原告及び別紙選定者目録記載の選定者に対してした昭和六〇年度就学援助非認定処分に対する異議申立棄却決定処分の取消しを求める部分をいずれも却下する。

二  被告が、原告及び別紙選定者目録記載の選定者がなした昭和六〇年度就学援助非認定処分に対する審査請求について、なんらの処分をしないことは、違法であることを確認する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  当初の請求の趣旨

(一) 被告が昭和六一年二月二五日付けで原告及び別紙選定者目録記載の選定者(以下、これらを合わせて「原告ら」という。)に対してした昭和六〇年度就学援助非認定処分に対する異議申立て棄却決定処分をいずれも取り消す。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  訴えの交換的変更後の請求の趣旨

主文二項、三項と同旨。

二  被告

1  当初の訴えについて

(本案前の答弁)

(一) 主文一項と同旨。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

2  変更後の訴えについて

(一) 原告の訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  当初の請求原因

1  当事者

原告らは、いずれも大阪府東大阪市内に住所を有し、その親権に服する児童、生徒が東大阪市立の小、中学校に在学し、又は在学していた者である。

2(一)  原告らは、東大阪市児童生徒就学援助条例(昭和五九年度東大阪市条例第八六条、以下「本件条例」という。)に基づき、昭和六〇年五月一〇日以降順次被告に対し、同年度における就学援助認定申請を行った。

これに対し、被告は、昭和六〇年七月一日から同年一二月二三日にかけて、原告らの所得が就学援助認定の基準を上回っていることを理由に、就学援助認定をしない旨の処分(以下、「本件非認定処分」という。)を行い、そのころこれらを原告らに通知した。

(二)  そこで、原告らは被告に対し、行政不服審査法(以下、「審査法」という。)に基づき本件非認定処分に対する異議申立てを行った。

しかしながら、被告は、昭和六一年二月二五日付けで、右申立てを棄却する旨の処分(以下、「本件棄却処分」という。)を行い、同月二六日以降原告らに通知した。

3  本件棄却処分は、以下のとおり違法である。

(一) 原告らは、異議申立書において、

(1)憲法二六条の義務教育無償の原則によれば、就学援助の認定を所得額によって制限することは許されないこと、(2)仮に一定の所得制限がされるとしても、憲法二五条、学校教育法二五条によれば、生活保護基準を下回る所得額を基準とすることは許されないこと、(3)仮に、右の各主張が認められないとしても、右の所得要件を満たさない一定の場合に裁量により就学援助認定を認めた本件条例五条該当性の審査につき、所得金額についての公的証明の添付を要件とする東大阪市児童生徒就学援助条例施行規則(以下、「本件施行規則」という。)五条、六条は違法であること等の事由を不服の理由として主張した。

しかるに、被告は、原告らは、認定申請に必要な本件施行規則五条所定の公的証明を添付しなかったということのみを本件棄却処分の理由としており、原告らが主張した前記(1)及び(2)の各事由には触れていない。

したがって、本件棄却処分は、原告らの不服の理由に対応して決定の理由が付されていないから、審査法四八条、四一条一項に違反する理由不備の違法がある。

(二) 原告らは、異議申立て後の昭和六一年二月一日から同月一五日にかけて、被告に対し、原告らの代理人である大阪東生活と健康を守る会(以下、「生健会」という。)を通じ、審査法二五条一項但書に基づき、異議申立ての審理において原告ら本人又はその代理人が口頭による意見陳述をする機会を与えるよう申し立てた。それにもかかわらず、被告は、原告らに右口頭意見陳述の機会を与えないまま、本件棄却処分を行った。

したがって、本件棄却処分は、審査法二五条一項但書に違反する。

(三) 行政庁が他の行政機関に処分権限を委任した場合には、両者間には上級下級の関係が生じるから、受任庁がなした行政処分に対する審査法上の不服申立は、委任庁に対する審査請求のみが可能である。

本件条例では、被告が就学授助の認定又は非認定の処分権限を有するが、右権限は「教育長に対する事務の委任等に関する規則」(東大阪市教育委員会規則第六号、以下「本件規則」という。)二条により、被告から東大阪市教育委員会教育長(以下、「教育長」ともいう。)に委任されており、本件では、教育長が本件非認定処分を行った。

ところが、教育長は、その際、審査法上の不服申立としては、被告に対する異議申立てができる旨の誤った教示を行ったばかりか、これに従って被告に対してなされた原告らの異議申立てに対し、誤って自ら審理をし、本件棄却処分を行ったものである。

このように、被告は、原告らの右異議申立ての審理には全く関与していないから、本件棄却処分はこの点でも違法である。

4  よって、原告は、本件棄却処分の取消を求める。

二  変更後の請求原因

1  当初の請求原因1と同じである。

2(一)  当初の請求原因2(一)前段と同じである。

(二)  本件規則二条により被告から本件条例の就学援助の認定又は非認定の権限を委任された教育長は、原告らの右申請に対し、昭和六〇年七月一日から同年一二月二三日にかけて、原告らの所得が就学援助受給の認定基準を上回っていることを理由に本件非認定処分を行い、原告らに通知した。

(三)  そこで、原告らは、昭和六〇年一一月一一日から昭和六一年二月一日までの間に被告に対し、審査法に基づく審査請求をした。

3  被告は、原告らの右審査請求についてはすでに教育長が昭和六一年二月一五日付けで本件棄却処分を行ったとして、何らの処分もしない(以下、この状態を「本件不作為」という。)。

4  よって、原告は、被告の本件不作為が違法であることの確認を求める。

三  本案前の答弁の理由

1  訴えの変更について

被告がなした本件棄却処分の取消を請求する当初の訴えと被告の本件不作為が違法であることの確認を求める変更後の訴えとは、その請求の基礎を異にする。

また、当初の訴えでは、原告らの不服申立に対する応答としての本件棄却処分の存在を前提とし、理由不備の違法があったか及び意見陳述の機会を与える必要があったかという同処分の瑕疵の有無が争点であるのに対し、変更後の訴えにおける争点は、原告らの不服申立に対して被告が応答したか否かであり、両者は、その審理の対象、訴訟資料、証拠資料がまったく異なるから、変更後の訴えの審理のためには従前の訴訟資料、証拠資料が利用できず、新たな争点や立証の増加は必至であり、ひいては訴訟手続を著しく遅滞させることになる。

よって、原告の右訴えの変更は、不適法であり許されるべきではない。

2  当初の訴えについて

本件棄却処分をしたのは、被告とは別個の行政機関である教育長である。したがって、当初の訴えは、被告適格を欠く者を被告とするものであるから、不適法である。

四  本案前の答弁の理由に対する原告の認否

1  本案前の答弁の理由1は争う。

2  本案前の答弁の理由2のうち、本件棄却処分をなしたのが教育長であることは認め、その余は争う。

五  当初の請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2について

(一) 同(一)前段の事実は認める。同後段のうち、本件非認定処分にそのような内容が記載されていることは認め、その余の事実は否認する。本件非認定処分は、本件規則に基づき教育長が行ったものである。

(二) 同(二)前段の事実は認め、同(二)後段の事実は否認する。本件棄却処分は、教育長が行ったものである。

3  請求原因3について

(一) 同冒頭部分の主張は争う。

(二) 同(一)のうち、原告らが不服申立書にそのような事由を記載していたことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(二)のうち、本件棄却処分がされるにつき原告らの口頭による意見陳述がされていないことは認め、その余は争う。

(四) 同(三)は争う。

六  当初の訴えに対する被告の反論

1  原告らは、被告に対して昭和六〇年度分の就学援助認定申請をしたが、原告らの所得は認定基準を上回っていたうえ、被告が提出を促したにもかかわらず、原告らは、本件施行規則五条所定の公的証明を添付しなかった。そこで、本件規則二条により本件条例に基づく被告の権限の委任を受けていた教育長は、本件非認定処分を行った。その後、教育長は、原告らの異議申立について審理をしたが、結局原告らが前記公的証明を提出しなかったので、本件棄却処分を行ったものである。

2  本件棄却処分の適法性

(一) 異議申立てに対する決定に付記を要求される理由の程度は、その結論に達した過程を明らかにしておれば足り、右結論に関係のない不服の事由に対応させる必要はない。原告らは、本件条例四条の所得制限に抵触していたうえ、本件条例五条所定の理由認定を行うのに必要な公的証明も添付しなかったため、本件非認定処分及び本件棄却処分を受けたのであり、同棄却処分の決定書は、公的証明の添付がなかったことを棄却の理由として明記している。

したがって、原告らは、右記載により、本件棄却処分の理由が明確に判断できるから、原告らが主張する憲法二六条、学校教育法二五条等に基づく不服の事由に対応する理由を欠いても本件棄却処分には審査法四八条、四一条一項に反する違法はない。

(二) 被告側の担当者は、原告らに対し、原告ら本人が口頭による意見陳述を求めればこれを認める旨伝えていたが、原告側からは、生健会の代表者による口頭意見陳述の申立はあったものの、原告らは、自ら右意見陳述の申立をしなかった。したがって、教育長が本件非認定処分に対する異議申立ての審理で口頭意見陳述の機会を与えなかったことは、なんら違法ではない。

(三) 教育長は、本件条例二条に基づいて本件非認定処分及びこれに対する異議申立てについての審査権限を委任されている。したがって、本件棄却処分は権限を有する教育長により適法になされたものであるから、無権限の者がしたとの違法はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告の訴えの変更の適否について

1  被告は、原告の当初の訴えと変更後の訴えとは請求の基礎が同一ではないから、原告の訴えの変更は認められるべきではない旨主張する。

しかしながら、自己に不利な行政庁の処分の取消しを求める取消訴訟も行政庁に何らかの処分をするよう促すことを目的とする不作為の違法確認の訴えも、いずれも右の各判決を求めることそれ自体が目的ではなく、行政庁の右の各措置が違法であるとの裁判所の判断を前提に、自己に有利な行政庁の処分を求めることにあるから、両者の目的は実質的には異なるものではないと解される。そして、原告の当初の訴え及び変更後の訴えにおける各主張に照らせば、これらの訴えの対象である本件棄却処分又は本件不作為は、いずれも本件非認定処分に対する不服申立てに関する被告の対応を審判の対象とし、両者の差異は、被告の右対応を行政処分とみるか、不作為の状態とみるかという事実認定上のとらえ方の違いに起因しているにすぎないから、右の両訴えは、その請求の基礎を同じくするものであると認められる。

また、被告は、訴えの変更を認めると著しく訴訟手続を遅滞させる旨主張する。しかしながら、右の各訴えが請求の基礎を同じくするものであることは前判示のとおりであるうえ、本件記録によれば、原告は、昭和六三年四月一四日の第一四回口頭弁論期日においてすでに本件棄却処分が教育長によりなされたことを本件棄却処分の取消事由の一つとして主張しており、この点に関する証拠調べも行われたことが認められる。これらに照らすと、変更後の不作為の違法確認の訴えの審理においても、従来の訴訟手続で提出された訴訟資料や証拠資料がほぼそのまま利用でき、新たな証拠調べは不要であるから、本件訴えの変更が著しく訴訟手続を遅滞させるものとは認められない。

したがって、本件訴えの変更は適法であるから、被告の本案前の答弁の理由1の主張は採用できない。

2  そして、民事訴訟法二三二条により、従来の請求に代えて新たな請求について審判を求める訴えの交換的変更は、従来の請求を維持しつつ、別個の請求を追加して審判を求める訴えの追加的変更と従来の訴えの取下げ又は請求の放棄とが組み合わされたものであるところ、本件記録によれば、原告は、当初本件棄却処分の取消しを求めていたところ、その後平成元年六月三〇日の第二一回口頭弁論期日において民事訴訟法二三二条に基づき、当初の右訴えを本件不作為の違法確認の訴えに変更する旨申し立てたこと並びに被告は、これに対し、同年九月一日の第二二回口頭弁論期日において、右訴えの変更に異議を述べ、追加にかかる不作為の違法確認は別訴によるべき旨主張したことがそれぞれ認められる。

右事実によれば、本件の審判の対象は、原告が追加した不作為の違法確認の訴え及び原告において取下げの意思表示をしたものの、被告がこれに同意しなかったために今なお係属している当初の本件棄却処分の取消しの訴えの両者である。

二  本件事実関係について

いずれも成立に争いがない甲第一ないし第四号証、第三九ないし第四三号証、第四五号証、乙第一ないし第六号証及び第九号証(乙第一ないし第六号証は、いずれも原本の存在も争いがない。)、証人菱田武夫及び同下村善博の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  東大阪市では、学校教育法二五条、四〇条や就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律(昭和三一年法律第四〇号)の趣旨に則り、経済的理由により就学困難な児童生徒の保護者に対し、従来から東大阪市就学援助費支給要綱等によって必要な援助を行ってきたが、昭和五九年度に至り、同要綱を条例化するとともに、援助の要件、内容等を整備した本件条例を制定し、昭和六〇年四月一日からこれを施行した。

本件条例は、東大阪市の区域内に住所を有し、かつ同市立の小、中学校に在学する児童生徒の親権者等の保護者の所得が一定の基準に達しないこと等一定の要件があると被告が認めた場合に、右保護者に対し、学用品費や学校給食費等につき金銭を支給する方法で援助することを主たる内容とする(同三ないし五条)。そして、右就学援助費の支給を受けようとする保護者は、毎年度ごとに被告にその旨を申請し、被告は右認定要件の存否等を審査し、就学援助費の受給を認定するか否かを決定する処分を行い、その結果を当該保護者に通知することとされていた(同四ないし七条)。この他、申請の様式、認定の際の手続等の本件条例の施行に必要な事項は、被告が定めることとされ(同一五条)、これに基づいて本件施行規則が制定された。

2  ところで、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、「地教行法」という。)は、地方公共団体が処理する教育に関する事務等の管理及び執行を行うために都道府県及び市町村に教育委員会を置き(同法二条、二三条)、各教育委員会には教育長及び事務局を置く旨規定する(同法一六条一項、一八条一項)。そして、教育長は、地教行法により、教育委員会の指揮監督の下に教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどって事務局を統轄する(同法一七条一項、二〇条一項)とともに、各教育委員会は、その制定する教育委員会規則の定めるところにより、教育長に対し、自己の権限に属する事務の一部を委任し、又は教育長をして臨時に代理させることができる(同法二六条一項)こととされている。被告は、右地教行法二六条一項及び本件規則二条に基づき、本件条例所定の就学援助認定又は非認定の処分権限を教育長に委任している。

3  原告らは、いずれも東大阪市内に住所を有し、その親権に服する児童、生徒が東大阪市立の小、中学校に在学し、又はしていた者であるが、本件条例に基づき、昭和六〇年五月一〇日から順次、被告に対し、昭和六〇年度における就学援助認定申請を行い、被告は、右の各申請を受理した(以上の各事実は、当事者間に争いがない。)。そして、前記のとおり、被告から就学援助の認定又は非認定の処分権限を委任されていた教育長は、被告が受理した右申請について審査し、昭和六〇年七月一日から同年一二月二三日にかけて順次原告らに対し、教育長名で、その所得が基準を上回っているので就学援助の認定をしない旨の本件非認定処分をするとともに、同処分に不服があるときは、被告に対して異議申立てができる旨の教示をした(教育長が本件非認定処分をしたことは、当事者間に争いがない。)。

4  原告らは、本件非認定処分を不服として、昭和六〇年七月一日から同年一二月二三日にかけて各自被告に対し、「昭和六十年度就学援助に関する却下処分についての異議申立書」と題する書面による不服申立をしたが、同書面には、「行政不服審査法に基づく異議申立を行い「処分の変更」を求めます。」との記載があった。そして、被告は、右の各書面を受理した(原告らが被告に対し、本件非認定処分に対する不服申立てをしたことは、当事者間に争いがない。)。

5  原告らの右不服申立てについては、昭和六一年二月一八日頃から教育長及び被告の事務局の職員が審査に当たったものの、被告の構成員である教育委員は右審査には全く関与しなかったし、この問題に関する被告の会議も開かれなかった。そして、教育長は、右不服申立てに対し、昭和六一年二月二五日付けでこれを棄却する旨の主文の記載、「東大阪市教育委員会教育長木寺宏」の記名及びその当時教育長が公印として使用していた「東大阪市教育委員会教育長印」の印影のある「決定書」と題する書面を作成したうえ、右書面の謄本を原告ら各自に送付し、教育長名により右同日付で原告らの右不服申立てを棄却する旨の本件棄却処分をした。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  本件各訴えについて

1  原告の当初の訴えについて

原告の右訴えは、本件非認定処分に対する原告の異議申立に対して被告がなした本件棄却処分の取消を求めるものである。しかしながら、前記二の認定事実に照らせば、本件棄却処分をしたのは、被告とは別個の行政機関である教育長であると認められる。

したがって、当初の取消しの訴えは、被告適格を有しない者に対する訴えであるから、この点においてすでに不適法である。

2  原告の変更後の訴えについて

(一)(1)  審査法は、行政庁の違法又は不当な処分等に関し、簡易迅速な不服申立てとして、処分をした行政庁以外の行政庁に対する審査請求及び処分をした行政庁に対する異議申立てを基本として定めている(同法三条一、二項)。そして、審査法は、右審査請求と異議申立てとの関係につき、審査請求は、原則として処分庁に上級行政庁があるとき(同法五条一項一号本文)並びに処分庁に上級行政庁がない場合でも法律又は条例で審査請求が認められる旨規定されているときに認められる(同二号)一方、異議申立てを認めた同法六条二、三号の場合を除き、処分庁に上級行政庁がないときに限りすることができるとしており(同法六条一号)、審査請求を不服申立ての中核として構成している。

ところで、審査請求は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除き、処分庁の直近上級行政庁に対してするものとされているが(同法五条二項)、右上級行政庁とは、当該行政事務に関し、処分行政庁を指揮監督する権限を有する行政庁を指し、上級行政庁に対して更に上級行政庁がある場合には処分行政庁により近接した上級行政庁を差すものである。そして、ある行政庁から他の機関に処分権限を委任した場合にも、委任行政庁は、受任行政庁の当該権限の行使につき原則として指揮監督権を有し、上級行政庁に該当するものと解される。

(2) これを本件についてみるに、前記二の認定事実によれば、教育長は、教育委員会の指揮監督の下に、同委員会の権限に属するすべての事務をつかさどるものとされるところ、東大阪市では、教育長は、被告から本件条例に基づく就学援助の認定又は非認定の処分権限を委任されているから、被告は教育長の右処分権限の行使を指揮監督する上級行政庁に該当する。そして、教育長による右処分権限の行使に対して異議申立てができる旨定めた法律は存せず、また、教育長が審査法六条二号所定の機関に該当しないことも明らかである。

なお、被告は、本件非認定処分に対する審査法所定の不服申立ての審査権限も本件規則二条により教育長に委任されている旨主張する。しかしながら、処分庁に審査請求に対する審査権限の委任をも認めるとすれば、審査法六条各号に該当しない場合に実質的に異議申立てを認める結果を招来し、審査法が処分庁以外の行政庁に対する審査請求を不服申立ての方法の原則とし、異議申立てを例外的に認めている趣旨を没却することになることが明らかであり、これに証人菱田武夫の証言及び弁論の全趣旨を考え合せれば、本件規則二条は、審査請求に対する被告の審査権限をも教育長に委任したものとは解されない。よって、被告の右主張は採用できない。

(3) そうすると、教育長のした本件非認定処分に対する審査法所定の不服申立ては、被告に対する審査請求のみが認められ、教育長に対する異議申立てや教育長自らが右審査請求に対して自己の名義で裁決をすることも許されないというべきである。

(二)  そこで、本件について判断する。

(1) 前記二の認定事実によれば、原告らが被告に対し、審査法に基づく審査請求をしたことは明らかである。なお、原告が被告宛に提出した本件非認定処分に対する不服申立ての書面には「異議申立書」との記載があることは前記認定のとおりであるが、前記認定の同書面の内容、形式及び同処分の通知書に被告に対する異議申立が教示されていたことに照らせば、右不服申立の書面の記載も右判断を左右するものではない。

(2) 前記二の認定事実によれば、被告の本件不作為は明らかである。

なお、教育長が本件棄却処分をしたことは前記認定のとおりであるが、これをもって被告のした審査請求に対する裁決とみることができないことは、前判示のとおりである。

(3) 前記二の認定事実によれば、就学援助の認定、非認定は、単一年度におけるものであり、当該年度中に許否いずれかの判断がなされることがその性質上当然に要請されており、このことは、同認定申請に対する非認定処分の適否を審査する審査請求手続においても基本的には異なるところがない。

ところが、前記二の認定事実に照らせば、被告は、教育長の本件棄却処分によってすでに原告らの右不服申立に対する応答をしたとして、原告らの前記審査請求以来四年以上にわたり許否いずれの判断もせず、かつ、近い将来に判断する意思をも有していないものといえる。

(4) したがって、被告の本件不作為は違法といわねばならない。

3  このように、原告の本件各訴えのうち、被告に対する本件棄却処分の取消を求める部分は不適法であり、被告に対する不作為の違法確認を求める請求は理由がある。

四  結論

よって、本件訴えのうち、本件棄却処分の取消しを求める部分を却下し、本件不作為の違法確認の訴えを認容することとし、訴訟費用につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 田畑豊 田中敦 黒野功久)

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